環境教育に対する生徒と教師の態度

Teaching about Environmental Education

雨宮浩二,日暮久敬,メイサーダリル Koji Amemiya, Hisanori Higurashi & Darryl Macer
筑波大学生物科学系 Institute of Biological Sciences, University of Tsukuba

pp. 102-104 in 日本における高校での生命倫理教育、メイサー ダリル(編)、ユウバイオス倫理研究会 2000年。


1 はじめに

近年の環境倫理学の議論の盛り上がりは,様々な倫理学的な理論を発展させた。しかし,これらの倫理学的規範は,一般の人々が環境に配慮した行動を取るための動機付けとして良く機能している様には見えない。また,一般的に倫理学者は社会調査を行わないが,それでは人々の考え方を読み間違う危険性がある。そこで,本研究では,規範的倫理学に対する一般市民(高校生)の受け止め方と彼らの慣習的倫理観(記述的倫理)について調査を行った。

2 サンプル

 アンケート調査は,大阪府立美木多高等学校,東京都立足立新田高等学校,茨城県立水戸第二高等学校,逗子開成中学・高等学校,日立北高等学校,浦和第一女子高等学校,神奈川県立柏陽高等学校,石川県立小松高等学校の生徒を対象に行った。N=567(男 28% 女 72%)  (16才 19%, 17才51%, 18才 29%, 無記入:2%)。

3 環境問題と自家用車

日本の高校生は環境問題に対する漠然とした危機感を持っているものの,環境問題がなぜ危機的なのか,あるいは環境問題が誰に危害を及ぼすのかという具体的知識(倫理学で議論されているような事柄に到達しているかどうか)に欠けることが示唆された。さらに,環境に配慮した行動がとれない理由として便利な生活から抜け出せない心理的,社会的構造の存在が示唆された(Higurashi & Macer 2000)。

 問1. あなたは,いわゆる,地球環境問題の進行を食い止めるために,何らかの行動を実施する必要があると思いますか。また,その理由を教えて下さい。

必要 (87%)    不必要 (2.3%)

わからない (9.3%) (無記入:1.4%)

 問2. 現在,日本では,乗用車の普及台数は一人一台となるような勢いで増加していますが,あなたは,自家用車の利用によって何か社会問題を生じる,あるいは生じていると考えたことがありますか。また,その問題とは何ですか。

ある (81%)  ない (18%) (無記入:1.4%)

 問3. あなたは,この2,3年間に,以下のような被害を受けたと思ったことがありますか。

a. 自動車やオートバイによる騒音。

ある(70%)  ない(30%) (無記入:0.5)

b. 自動車やオートバイによる大気汚染。 

ある (54%)   ない(43%) (無記入:3.5)

4 環境に対する認識と環境保全のための行動

高校の教師を対象としたアンケート調査の結果,環境教育を推進する上での問題点として,新しい総合的な科目の設置,環境教育専門の教員の養成,環境教育のマニュアルの作成,受験制度の見直し,開かれた学校,ここのライフスタイル(社会システム)の見直しなどが多く挙げられた。

高校生を対象としたアンケート調査の結果,人間中心的な考え方に同調している生徒は,他の生徒に比べ統計的に有意に環境保全活動への取り組みが消極的であることが分かった。

「生物」について問われたとき,多くの生徒が「動物」を連想し,「自然家に存在しているモノ」について問われたときに「植物」を連想する傾向があった。また,生徒がどのような機会に自然と人間の関係を考えるかを調査した結果,「考えているとき」や「テレビを見ているとき」などの実体験出ないものが大半を占め,学校教育における体験的な学習は解剖の実験などに限られていた(Amemiya & Macer 1999)。

表1: 環境保全活動への取り組み(%s)

問5. あなたはこの1年の間に_

 

 

(%)
Q5a.「無農薬」と表示された食物を買った。 Q5b.環境問題の原因になるので買うのをやめたものがある。  Q5c. 環境問題を考えて寄付をしたり活動をした。 Q5d.環境を守るためにライフスタイルをかなり変えた。 Q5e.安全性を考えて食べるのを止めたものがある。 Q5f.リサイクルするためゴミ(びん,紙_)を分別した。 Q5g.お湯の使用を減らしたり,冬は熱が逃げないようにドアや窓を閉めるなどしてエネルギーを節約している。
はい

32

17

19

10

34

70

57

いいえ

19

50

63

69

44

16

25

わからない

47

31

16

19

20

11

17

無記入

1

2

2

3

3

2

2

表2: 環境に対する認識と環境保全活動への取り組みの関係

問4 あなたは自然や生物と人間の関係をどのように考えていますか。

a. 自然や生物のために存在していて,それらを人間が利用するのは当然だ(または仕方ない)。

b. 生物はみんな平等であり,人間以外の生物も人間と同じく扱われるべきである。

c. 自然界にあるものはすべて平等であり,人間,人間以外の生物,自然物(土,水など)は等しく扱われるべきである。

d.その他の考え方

環境に対する認識 生徒数

環境保全活動への取り組み

平均項目数*
問4   問5b 問5c 問5d 問5f  
a.(人間中心主義) 110 11 8 5 62 0.9
b.(生命中心主義) 69 16 25 9 81 1.3
c.(生態中心主義) 50 16 26 8 80 1.3
d.(その他・自由回答) 76 30 29 17 76 1.5
無回答 66 11 6 9 47 0.7
合計 371 84 94 47 346 1.1
*平均項目数:問5に設定された4項目(b,c,d,f)のうち一人平均項目を選択したかを示す値。

 

表3: 自由回答(問4d)に対する回答のカテゴリー分け 

5 主要参考文献

Amemiya, K. & Macer, D. (1999) Environmental education and environmental behaviour in Japanese students, EJAIB 9: 109-115.
Higurashi, H. & Macer, D. (In Press) " The ethics of the heart and transport choices in Japan".


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日本における高校での生命倫理教育、メイサー ダリル(編)、ユウバイオス倫理研究会 2000年
学校における生命倫理教育ネットワーク
ユウバイオス倫理研究会(http://eubios.info/indexJ.html)