。
ネットワークの主な目標のひとつは、意見や情報を交換することによって、孤立感を味わいつつ生命倫理教育を進めている教師を支援することである。40名強の教師が、14都道府県、主に関東県内から名を連ねている。ネットワークでは、2カ月に1度のペースで勉強会を開いており、毎回、12〜20名ほどの教師が参加している。本稿では、これまで勉強会から学んだいくつかの点を紹介したい。この私たちの経験は、別の地域で同じような興味を持つ人々にも役立つものだろう。
●第1回勉強会●
1996年12月7日土曜日の午後、筑波大学にて第1回勉強会を開いた。7名の生物科の教師と7名の社会科の教師が、東京から約60キロのつくばへ足を運び、勉強会に参加した。ほとんどの教師にとってこの勉強会は、お互いが顔を合わす初めての機会であり、それゆえ、第1回目の勉強会はオリエンテーション的なものとなった。
それぞれ異なる経歴を持つ参加者が、生命倫理教育という共通の興味を深めることを目的に集まったわけだが、第1回勉強会においては、自由に意見を交換し話し合いをする雰囲気はなかった。予定していた3時間がたった時点で、やっと参加者全員が自己紹介を終え、それぞれの持つネットワークへの期待や今後のあり方を述べたにすぎなかった。生命倫理にかかわる話題についてより深く話し合うためには、話しやすい雰囲気を作ることがひとつの鍵である。様々な分野の人が、学際的に集まるということそのものが、日本の伝統において比較的めずらしいことだが、第1回勉強会に参加した教師もまた、自由に意見を交換することに慣れていなかった。ここに参加した教師は、例えば、最近の生命倫理における論議は専門家によってなされることが多く、一般市民は議論についていくことが難しいといった点を危惧するなど、権威主義に強い抵抗感を持っているようであった。しかしながら、教師たちは、勉強会において私たちに議論を先導することを期待しているようであり、権威に依存しているようにも見受けられた。
和やかとはいいがたい雰囲気にもかかわらず、参加した教師たちは、勉強会が2カ月に1度程度のペースで続けられることを望んだ。この頻度は、ほとんどの参加者が、忙しい日々の仕事の合間をぬっていくらかの時間をかけて勉強会の会場に赴くことを考えると、2カ月に1度程度で十分だろう考えたためである。また、多くの参加者の移動の便宜を考慮し、次回から会場を東京都内の学校に移すことも決定した。
教師からのコメントを以下に記す。第1回勉強会で明らかになった重要な課題のひとつは、教師たちが建設的な会話のもとにお互いに率直に意見を述べ合い、ともに学び合うことができるような勉強会の進め方を見つけることだった。
期待
第1回勉強会でぜひ、話し合いたいこと、期待することなど、ご意見をお書き下さい。
■「倫理教育の再生としての生命倫理教育」→教育過程(文部省)への働きかけ
■本校では生命倫理教育ははじめたばかりなので、右も左も分かりません。さまざまな知識・授業法などを勉強したいと思います。
第1回勉強会後のコメント
■もう少し、論点を明確にする必要がある。まず、現在、みんなで考えなくてはならない最も大きな問題は何か、それに関してどんなことが行われようとしているのか。ここまで話が進まないことには、どんな会になるのか見えない。
■自己決定ということがよくいわれますが、それは本当に可能なことなのでしょうか。未成年を預かっている私の立場からすれば、少なくとも生徒の自己決定は危なくて見てられません。
●第2回勉強会●
1997年2月15日に第2回勉強会を開き、4名の生物科の教師と9名の社会科の教師が参加した。勉強会の資料と当日の予定表は、前もって配布した。私たちが何よりもの目標として掲げたことは、教師たちが「話し合う」ことであり、そのため、開発教育や環境教育でたびたび使われる討論形式を導入した。第2回勉強会で設定した新たな試みは、ねらいをはっきりと定めたこと、参加者に考えたことや話し合ったことをできるだけ紙に書き出してもらうようにしたこと、あるひとつのテーマのもとに発表者をひとり立てたこと、まず小さなグループ(例えば1グループ4人)に分かれて話し合い、その後、グループ間で意見を交換したこと、話し合うときや考えるときに時間制限を設けたことだった。
第2回勉強会のねらいは、「生命倫理教育において根本的な課題を見つけ出し、今後、ネットワーク/勉強会で取り組むべき課題を探し出すこと」と「課題を持ち帰り、自分の日常の中で意識できるようにすること」の2点とした。発表は、ネットワークのメンバーのなかでも、私たちが生命倫理教育についての研究を開始した1991年以来、交流を持っている大谷いづみ先生にお願いした。大谷先生は、公民科、倫理・現代社会で10年にわたり生命倫理教育を実践している。
勉強会では、ねらいをまず説明し、グループに分かれて話し合いをする方法を提案した。また、勉強会で話し合ったことや考えたことを積み重ねていけるように、そして、勉強会に参加したくとも参加できない多くの教師とも理解を深められるように、積極的に考えたことを紙に書いていくよう促した。さらに、よりよく記録を残すために、教師の了解を得、勉強会の様子を録音した。勉強会の最中、いつでも、教師がコメントを書き出せるよう、コメントシートを配布した。コメントシートには、第2回勉強会の報告書に掲載を希望する提案などを書く欄と、報告書には掲載を希望しない意見を書く、2つの欄を設けた。コメントシートは無記名で、勉強会終了後、回収した。
アイスブレーキングとして、すべての参加者が2人1組となり、1人1〜2分で自己紹介をした。この自己紹介では、まず一方が自己紹介をし、一方は聞くという、時間を区切ったやり方を試みた。その後、2組ずつ4人のグループを作り、パートナーを他の他の人に紹介するという他己紹介をした。第2回勉強会以降、この方法を毎回とり、なじみのない人と2人組になることで、お互い知り合う機会を設けている。
大谷先生は、非常に熱心な生命倫理教育者であり、発表では、生命倫理教育における大谷先生自身の豊かな経験を踏まえ、生命倫理における教育の役割、教育における生命倫理の役割を問われた。40分の発表の後、45分間、先の自己紹介でできたグループで作業をした。まず、生命倫理教育において根本的な課題は何か、また、ネットワークとして、どのようにそういった課題に取り組むことができるか、という問いかけについて、それぞれひとりずつ張りつけ可能な小さな紙(7センチ四方のポストイット)に書き出した。そして、書き出した言葉について説明を加えながら、各グループに1枚ずつ配布された模造紙に張りつけていった。さらに、ひとつひとつの意見の関連性を見つけだしながら、グループ内で話し合ったことや新たに浮かんだ考えを、随時、模造紙にマジックで書き込むようにした。
次に、作業をした模造紙を、参加者全員で囲みながら、各グループで話し合ったことを紹介し、意見を交換した。4つのグループ、それぞれが違った視点から話し合いをしていたことがわかり、意見を自由に交換することができた。その後、もう一度、もとの4人1組のグループにもどり、全体でのわかちあいを踏まえ、グループで話し合ったことを紙にまとめて書いた。時間の関係上、個人的に参加者ひとりひとりが勉強会を振り返る時間を設けることができなかったため、「ふりかえりシート」は後日、送り返してもらうことにした。
第1回勉強会とは異なる、第2回勉強会での活発な意見交換は、これが2回目の勉強会であり、教師たちに、お互い話をするという準備があったことに負うところが大きいだろう。しかしながら、この討論形式は、教師たちが自然に声を発するために、非常に有効に働いたように思われる。この討論形式の効果は、勉強会に参加した教師からのコメントにも現れている。いくつかのコメントを以下に記す。
第2回勉強会後のコメント
■大谷先生の素晴らしい実践例や多数の印刷物を拝見して、生命倫理が意思決定の問題であること、自己愛と他者への愛のせめぎあいになることも多々あることを実感しました。生命倫理にかかわる場面では、より良い選択をするために、人格が養われることが是非必要であり、人間も他の動植物同様、生態系の一員にすぎず、やがて死すべきものであるという、謙虚な人間観を持つことが必要だと思いました。
■小グループに分かれて討論し、そのまとめを、それぞれ発表していくという方法は、いろんな形で活用できそうです。
●第3回勉強会●
1997年4月19日に、熱心な生命倫理教育者であり、数年来、交流のある小泉博明先生を発表者に第3回勉強会を開いた。この勉強会では、私たちは、「病気」とは何か、授業で「病気」の子どもや家族、「差別」についてどう扱うことができるかということについて検討した。討論形式は、第2回目と同じものを導入した。
小泉先生は、日本史を教えているが、歴史は、何人かの教師が生命倫理教育に一役かう教科かも知れないと期待している教科である。小泉先生は、発表の中で、歴史、特に日本史という教科の中で生命倫理を扱う可能性を示唆した。つまり、生物、社会、倫理といった教科は、生命倫理について未来について考える機会を与えてくれる場合が多いが、歴史は過去をも視野に入れる重要性を投げかけ、それゆえ、広い視野にたった見方を与えてくれるという利点である。
少し引用が長くなるが、以下に、第3回勉強会で寄せられた教師のコメントを記す。(この部分は、今回ニュースレターに載せた、第3回勉強会で寄せられたコメントと重複するので、省きます。)
●第4回勉強会と今後●
5月17日には、動物実験をテーマに第4回勉強会を予定している。生物科の鈴木宏治先生に、牛の眼の解剖を実際に行ってもらう予定である。カエルの解剖にするかどうか、といった議論もあったが、動物実験の大枠を感じとるためには、1〜2個の牛の眼で十分であり、牛の眼の方が害を与えることも少ないだろうと結論を出した。この解剖では、はじめ生物実験室を使い、解剖後、通常使用している普通教室に戻り話し合いをする予定である。普通教室では、テーブルを自由に動かすことができ、討論を促進することができる。
生命倫理教育よりも幅広く成功をおさめ普及しているように見える環境教育においても、教育者が専門家や権威者から受動的に情報を受け取る事態に陥ることがある(3)。生命倫理教育においても、例えば、研究者と教師の間に、あるいは教師と生徒の間に、封建的な枠組みを持ち込む危険性はある。このような構図を避けるためには、教育者自身が、どのように学ぶかということを再検討しなければならないだろう。私たちは、この生命倫理教育に関するネットワークが、実践的な情報を交換するための場だけでなく、参加者全員が自らを振り返る場でもあることを切に願っている。
●謝辞●
この研究は、文部省科学研究費 (0860195)からの助成を受けています(1994、1995、1996〜1998年)。第1、2回勉強会の準備に際し、小幡寛子さんにはご協力をいただきました。また、ネットワークを支援してくださっているすべての先生方、補助教材についてご意見をくださったすべての先生方に感謝しております。ネットワークの発足に関しては、特に、小泉博明先生、井上兼生先生、大谷いづみ先生にご支援いただきました。さらに、東京都立日本橋高校を勉強会の会場として提供してくださっている山下亨先生のご厚意にも感謝いたします。
●参考文献●
1. Darryl R.J. Macer, Yukiko Asada, Miho Tsuzuki, Shiro Akiyama, Nobuko Y. Macer (1996), Bioethics in High Schools In Australia, Japan & New Zealand (Christchurch: Eubios EthicsInstitute, 1996), 200pp.
2. Yukiko Asada, Miho Tsuzuki, Shiro Akiyama, Nobuko Y. Macer and Darryl Macer, "High School Teaching of Bioethics in New Zealand, Australia, and Japan", Journal of Moral Education, 25 (1996) 401-420.
3. 原子栄一郎「テクノクラシーへの依存から学校教師のイニシアチブへ:オルタナテイブな環境教育 の進め方を求めて」、東京学芸大学環境教育実践施設研究報告「環境教育研究」、6、33ー43、1996
イベント情報
このコーナーでは、セミナー、勉強会、会議などをお知らせします。みなさんからの、情報をお待ちしております。
●第9回日本生命倫理学会年次大会●
「地球共同体の生命倫理:人類学、哲学と社会的正義」
1997年11月1〜2日 筑波大学にて
●生命倫理教育分科会●
これまでのところ、以下の方々が発表を予定されています。
健康・病気をテーマとした生命倫理教育(麹町学園女子高校、小泉博明)
ホームルーム野外合宿の生命倫理的意義、高校の事例から(羽田高校、橘都)
AIDSについてどう教えるか〜人間の生き方と社会のあり方を考えるために〜(国分寺高校、大谷いづみ)
山口大学一般教育における生命倫理教育の実践(山口大学、川崎勝)
日本における高校での生命倫理教育ネットワーク(筑波大学、浅田由紀子、メイサー、ダリル)
●生命倫理教育分科会、発表者募集!●
ネットワークからも、数名の先生方が発表を予定されていますが、まだ1〜2名発表者の余裕がありますので、他の先生方もぜひご発表ください。詳細は、 Email <
asada@bombyx.biol.tsukuba.ac.jp >.
●教員・市民・企業の環境教育をサポートする環境教育情報センター オープン●
<オープンタイム>
水・木・金 13:00〜21:00 / 第2、第4土 10:00〜17:00
<利用料金>
会員無料 会員外 1回500円
〒171 東京都豊島区目白3-17-24 地球市民ひろば内
TEL: 03-5982-8098 / FAX: 03-5982-8549
環境問題、環境教育についての図書が1500冊ほどあり、借りることができます。
教材発掘
このコーナーでは、授業で生命倫理に触れる際に参考となる本や論文、記事、テレビ番組、インターネット上のホームページなどを紹介します。みなさんに紹介したいものを見つけたときには、ぜひこのコーナーにお知らせください。今回は、第5回勉強会の発表者である井上先生のご推薦図書と、第4回勉強会のテーマでもあった動物実験に関するものを紹介します。
加藤尚武著
●「環境倫理学のすすめ」●
(丸善ライブラリー)
鬼頭秀一著
●「自然保護を問いなおす−環境倫理とネットワーク」●
(ちくま新書)
両書とも環境倫理思想の概要と論点を明快に紹介しながら、それぞれ独自の視点から問題を掘り下げて深く考察している。新書版ながら、たいへん密度の高い環境倫理の必読書。生命倫理を考える上でも示唆に富む。2冊併せて読むことを薦めます。(井上兼生)
A.N. ローワン(関裕子訳)
●「論争 動物実験の是非を問う」●
(日経サイエンス1997年5月号、109ー127頁)
Scientific American (February 1997) で特集された記事の全訳。高校での実験授業に関する情報はほとんどないが、1970年代以降の研究における動物実験の扱われ方が概観できる。
鳥山敏子
●「いのちに触れるー生と性と死の授業」●
(太郎次郎社、1993年、270頁)
動物を殺すのはかわいそうと言う一方で、他人がさばいた肉をスーパーマーケットで買い、何のためらいもなく食する私たちの感覚に疑問を持った小学校の教師である著者が展開した、鶏を殺し食べる授業や、一体の豚を解剖し、最終的にソーセージを作り食べる授業の報告。
●実践生物研究会メーリングリスト●
< jissen@hamajima.co.jp>
第4回勉強会にも参加された東京都立井草高校の斎藤三男先生がよびかけたメーリングリスト。生き物や生物教育に興味がある人ならば、誰でも参加OK。動物実験について意見が交わされたこともある。
学校における生命倫理教育ネットワーク 第2回勉強会報告
1997年2月15日 午後3時〜6時 東京都立日本橋にて
当日の進行予定
15:00ー15:30 近況報告
15:30ー16:30 大谷いづみ先生の実践報告
16:30ー17:30 質疑応答、討論
17:30ー18:00 次回勉強会についての事務連絡など
大谷いづみ先生の実践報告
公民「倫理」「現代社会」での「いのち」を扱う
人工生殖技術と家族 〜ベビーM事件をめぐって〜
無知は身を滅ぼす? 〜脳死・安楽死・尊厳死〜
生命の質と<選択> 〜胎児診断と人工妊娠中絶〜
以上の実践例をご報告いただきながら、10年間の実践を経て思うところ、感じるところについてお話をうかがいます。
第1回勉強会を終えての先生方の感想、提案
勉強会の進め方について
〜論点の明確化、時間の効率化、年間テーマ、具体的な発表者、授業の実践報告、事例研究〜
ーもう少し、論点を明確にする必要がある。まず、現在、みんなで考えなくてはならない最も大きな問題は何か、それに関してどんなことが行われようとしているのか。ここまで話が進まないことには、どんな会になるのか見えない。
ー時間の効率化。
ー年間テーマを決めて、勉強会をする。例えば、「遺伝子治療」。そのときに、研究者による講演や発表などを聞く。現場の教員と研究者との交流ともなる。
ー第2回目からは、具体的な発表者を決めて、授業の実践例、資料、問題提起などを行ってもらい、それをもとに議論を進める。
ー授業の実践報告、事例研究が必要。できれば、倫理と生物で各1名のレポーターの報告が望まれる。具体的な授業の展開で、どのような問題がるのかを提示する。そして、質疑応答により、理解が深まる。
ー授業の実践例を公開してほしい -前回はおおよその授業内容しかわからなかった。50分の授業を、あるいは数回の授業をどのように組み立てたのか、教材は何を使ったのか、生徒はどういう反応をしたのか、試験の結果はどうだったのか、などをすでに実践をされている先生がたに公開していただけると助かる。
勉強会での長期的なプロジェクト
〜国際比較・協力、学校間協力、ワーク・シートの作成、データ・ベース確立〜
ー欧米の生命倫理教育は、どのように展開されているのか。できれば、テキストを取り寄せて検討したい。
ー授業で使えるワーク・シートの作成。内容は、外国でも使用可能なもの。国際比較が後にできるもの。
ーデータ・ベースの確立の急務。
ーマスコミへの連絡によるPR。
ーメイサー先生の情報とネットワークを活用して、他の国々の生命倫理教育の実情を紹介してもらい、実際に海外で実践に取り組んでいる教員との交流、ネットワークの形成へと発展させていく。
ーせっかくネットワークを作るのだから、発表は個人的なものでなく、多くの学校が参加していけるような方法をとれたら良いと思う。全国の生命倫理教育について実践されている方々の手法をモデルに、多くの学校で実施し、その結果や効果を持ちよることができれば、ネットワークによる全国的な広がりや効果が期待できると思う。具体的には、どのようなことが多くの学校で実施できるテーマかを考え、方向を決めたい。その際には、アンケート等の実施だけでなく、授業の実践を通しての効果を報告できればさらに良い。また、学校構成についても、バラエテイーに富んだものとなるよう配慮する必要がある。これらの準備を3学期中に決め、協力を事前に各校に要請できないか。
ネットワークの広げ方
〜情報発信の手段の多様化、海外への発信、関東近県以外をも含む全国化〜
ー毎回、勉強会の内容を要約して、ファックス、インターネットなどさまざまな方法で発信し、全国からアクセス、活用、交流が可能なようにしていく。英語の要約が作成できれば、海外への発信も考えられる。
[ネットワーク、勉強会の情報(お知らせ、報告などすべて)は、近々インターネット上の、ユウ バイオス倫理研究会のホームページでも見ることができるようになります(日本語と英語の両方)]
ー関東近県だけでなく、関西方面や全国的な集まりにできたらさらによい。
今後、話し合うべき根本的な問いかけ
〜生命倫理教育の目指すもの、生命倫理教育のあり方、学習を支援するプログラム〜
ー「脳死は科学的で正しいか」という発言を中心に「授業で扱うのがコワイ」「生命とは、倫理とは」「どれが正答かと聞いてくる看護系生徒」「授業で扱うことの意味は」といった発言をされた方々の考えをさらに聞きたい。ここには、次に挙げるような、根本的な問題が示されていると思う。
1)生命倫理教育は何を目指すのか。「科学的生命観」を広めようとするのか、科学をコントロー ルする生命観を求めるのか。また、その生命観を社会的に統一することを求めるのか、個人の選 択権を広げることを求めるのか。
2)生命倫理教育とはどうあるべきか。ある倫理を伝えよう、広めようとするのか、生徒個々人の 倫理を育てようとするのか。
ー生命倫理教育の教育方法に関して、川上正光氏のES型教育の必要性が高いと思った。従来の教授パターンは、教える側と教えられる側との知識の量の非対象性を根拠とした情報の伝達が中心となるが、生命倫理という問題の性質上、教える側も教えられる側もともに参加しあい、学びあうという側面が強調されると思う。その学習を支援するプログラムが求められているのではないか。
ー生命の尊さはどうすれば教えられるのか ー羊の頭蓋骨を斧の峰で割ったとき、生命の尊さを知ったというご発言がありった。現在の少年犯罪の凶悪化を見ていると、羊を殺したとき、生命の大切さを学ばずに、殺戮に快感を覚える青少年もいるのではないかと危惧してしまう。生命の尊さはどうすれば教えられるのだろうか。
ー自己決定権 ー自己決定ということがよくいわれるが、それは本当に可能なことなのだろうか。未成年を預かっている私の立場からすれば、少なくとも生徒の自己決定は危なくて見ていられない。では、大人はどうかでが、個人を重視してきた近代ヨーロッパの人間観が必ずしも正しいとは思えない。個人が集まって社会ができたとよくいわれるが、最初に社会ありきだという考えも実は戦前のヨーロッパで登場している。ただ、このテーマは勉強会で扱うには大きすぎて、議論が拡散してしまうおそれがある。雑談のときにでもふれるくらいがよいかもしれない。
今後、話し合いを望む題材 〜死、親子、差別、環境倫理〜
ー「科学的生命観」の現実に差し迫っている問題について、1)「死とは何か」、2)「親子とは何か」という2点に多くの方々の関心を感じ、私自身の関心が他の方々とも共通したものであることを知ることができ、この2点に、授業でどうアプローチするのかの具体例の交流を望む。
ー差別とどう取り組むかという点から、それぞれの問題を考える必要を感じた。特に、この点では、社会科の方々の考えを聞きたい。また、色覚「異常」に代表される教科書のなかの差別について、特に生物教員の意見を知りたい。
ー環境倫理について何も知らないので、特に、生命倫理と両立しないという点について勉強会があればうれしい。
授業実践報告 〜解剖〜
講義中心の授業ではなかなか生徒がついてこないので、観察や実験をなるべく取り入れるようにしている。ただ生物を眺めているだけならいいが、中にはどうしても生物を殺さなくてはならない場合がある。特に解剖では自分の手で目の前の生物を殺すことになる。
例:カエルの解剖の場合、生徒からポロっとでる言葉は
<解剖前>
初めから死んでないの?自分で殺すの?何で殺さなきょいけないの?解剖すると死ぬの?解剖した後、お腹を縫うの?など
<解剖後>
このカエルどうするの、埋めるの?こんなことして何になるの?なにも殺さなくたっていいじゃん
その他、カイコ(5齢幼虫)、イカ、ウシの眼などの解剖でも似たような声が聞かれる。
教壇に立っている以上、これらの素朴な(しかし大切な)問いかけに対して答えを持っていないとならないだろう。一方では生命の大切さを説きながら、他方では生き物を殺している矛盾をどうとらえればいいのだろうか。かといって、実験をまったくやらないのも問題があるだろう。「解剖」をどう位置づけて実施していくか自分なりの答を持っていないと、この先、解剖をやっていくのにためらいを感じる。この問題は、人間が他の生物とどうかかわっていくか、自然とどう関わっていくかという問題を含んでいるように思える。
[生徒が解剖をどうとらえているのか過去のアンケートもいただきました。興味がある方は、浅田までご連絡ください。]
その他
ー他の先生方の発言をお聞きして、素朴な点で、身近に感じたり、考えさせられたりした。また、確固としたご意見も伺い、圧倒された。
ー「倫理」と「生物」それぞれの参加者が、生命倫理に関心を持ったり熱心に取り組んだりしていることがわかって、大変心強く思った。関心を持っている教員は、滞在的には相当いるのではないかという気がした。広く情報を発信して、そうした教員の関心を掘り起こしていくことも今後の課題かと思う。
ー自分自身、「生命」というものをさほど大切にしているとも思えないなかで、どれほど深く的確に「生命」を実感としてつかめるか、興味は尽きない。
学校における生命倫理教育ネットワーク 第1回勉強会報告
1996年12月7日 午後3時〜6時 筑波大学にて
参加者
理科の先生方
捨田利謙(しゃたり・ゆずる)先生 石川県立小松高校
石塚和美先生 千葉県立長狭高校
刈屋香津子先生 東京都立池袋商業高校
石黒隆文先生 埼玉県立杉戸高校
くわ子正博先生 埼玉県立杉戸高校
白石直樹先生 東京都立足立新田高校
鈴木宏治先生 東京都立南葛飾高校
社会科の先生方
加藤正和先生 東京都荒川商業高校
小泉博明先生 麹町学園女子高校(東京都)
大谷いづみ先生 東京都立国分寺高校
井上兼生先生 埼玉県立大宮中央高校
井出知綱(いで・ちづな)先生 埼玉県立鷲宮高校
山下亨先生 東京都立日本橋高校
杉山登先生 逗子開成中学・高校(神奈川県)
筑波大学
メイサー、ダリル (生物科学系)
小幡寛子 (第2学群生物学類4年)
浅田由紀子 (環境科学研究科1年)
先生方がこれまでに携わった生命倫理に関する教育について
今回、お集りいただいた先生方のバックグラウンドはさまざまなものでした。ほとんどの生徒が高校卒業後、就職を希望する学校で教えている先生、進学校で教えている先生、そのなかでも、看護系を希望する生徒に教えている先生、文系の生徒に教えている先生、また、教えている学年も1〜3年までさまざまでした。また、ご担当の教科も、生物1A 、生物1B 、公民、倫理、歴史、現代社会といろいろで、授業枠も、これらごく普通の教科のほか、課題研究、公開講座というかたちで携わっている先生もいました。
生命倫理に関する教育として、先生方が、取り上げたり触れたりしたことのある題材は、脳死、生殖技術、動物実験、臓器移植、安楽死、エイズ、優生学などでした。最近のいじめ、自殺に対する社会的注目度から、生徒自身が、死というテーマに対して興味をもっているという大谷先生からの指摘もありました。取り組み方は、教科、授業枠によりさまざまで、例えば、鈴木先生は、1学期間に3回行う動物実験をとおして、また、石塚先生は、倫理の授業でデカルトと脳死の問題を結びつけて話していることを紹介してくださいました。また、杉山先生は、生命倫理を大きな思想の流れとして捉え、歴史という科目で生命倫理を扱うことも面白いのではないかとお話ししてくださいました。このような、生命倫理に関する教育の授業形態としては、講義形式がほとんどでしたが、ビデオを使う先生も多くいました。使われる映像は、NHK のものが多いようですが、より効果的で、なおかつそれほど授業時間を割かずにすむビデオ教材を、どの先生方も探していました。また、新聞記事、自作プリントを使われる先生も多くいました。さらに、捨田利先生は、生徒が作成したアンケートを用いたことや、保健所の職員の方に訪問してもらい話を伺ったことを紹介してくださいました。石塚先生は、日本の脳死に関する法律はどうあればよいか、生徒がロールプレイを行ったことを紹介してくださいました。生徒に感想文、作文などを書いてもらい一方通行になることを防いでいる先生方が多くいましたが、生徒に対してどのようなコメントを返せばよいのか分からないといった意見もありました。また、わたしたち、生命倫理教育に関する研究グループが作成し配布した補助教材は難しすぎるといった指摘を受けました。
生命倫理に関する教育を行う上で難しい点として挙げられたものは、次のようなものでした。限られた時間でどのように扱うことができるか、生徒が自分のこととして問題意識を持つにはどうすればよいか、「脳死」「自主性」といった言葉だけがひとり歩きしているのではないか、生命倫理における問題について理論的、理性的には受け入れられても、感覚的に拒絶感をもつ場合、どのようにその状況を生徒と共有していけるか、問題提起をしたまま、放りっぱなしにするようなやりかたでよいのか、「生命倫理教育」先が見えないことが多く、重く、教師としてびくついてしまう、先が見えないと教育はできないのか、生徒の問題に対する理解度はどのようにはかることができるのか、輸入ものではない日本の生命倫理を教えるにはどうしたらよいか。
先生方ご自身が、生命倫理に興味をもつようになり、その必要性を感じたきっかけとして、NHK の番組が多く挙げられました。また、大谷先生からは、生命倫理教育は現在の教育を再生する力を秘めていると、力強い指摘をいただきました。
第9回日本生命倫理学会、高校での生命倫理教育分科会について
1997年11月1〜2日に、第9回日本生命倫理学会が筑波大学で開催されると決定したこと、その学会で高校での生命倫理教育分科会をぜひ持ちたいという、わたしたち、生命倫理教育に関する研究グループの希望を述べました。突然の話だったこともあり、この件については、日本生命倫理学会がどのような組織なのか(10年ほど前に坂本百大先生(哲学者、現在、日本大学名誉教授)によって設立、その後、星野一正先生(医者、京都女子大学教授)をへて、今秋から坂本先生が会長。全国におよそ1000人ほどの会員がおり、会員は、医者、哲学者、倫理学者、宗教学者、科学者、法律科など)を説明するに留まりました。
今後の勉強会について
今後、2ヵ月に1度ほどのペースで集まることができないかということになりました。場所は、できるだけ多くの人が参加しやすい場所ということで、東京の中心部に近い高校を選択することにしました。次回の詳しい日時、場所については、現在、調整中です。
次回の勉強会までに、参加者は、今回の勉強会についてのコメント、今後話し合いたいことなどを生命倫理教育に関する研究グループまで提出することになりました。これをもとに、次回のレジュメを作成し、第2回勉強会に望む予定です。第2回目の勉強会では、今回ご参加いただけなかった先生方にもお越しいただくことを願っております。
学校における生命倫理教育ネットワーク第5回勉強会のお知らせ
<とき・ところ>
7月12日(土)15:00〜18:00
麹町学園女子高校にて
<テーマ>
環境倫理教育と生命倫理教育
<ねらい>
(1)環境倫理教育の課題と論点は何か?
(2)環境倫理教育と生命倫理教育の連携の可能性はどこにあるか?
<キーワード>
人類は地球のガン細胞?/自然の権利/世代間倫理/サイキックナミング(心的無感覚)
<当日のスケジュール>
15:00〜15:30 オリエンテーション、アイスブレーキング
15:30〜16:30 埼玉県立大宮中央高校、井上兼生先生(倫理)の発表
16:30〜17:00 グループに分かれての討論
17:00〜18:00 全体でのわかちあい、まとめ
参加される方は、 Email <
asianbioethics@yahoo.co.nz >.まで、参加の旨を事前にお知らせください。話し合いを有機的なものにするために、できるだけ、最初から最後までご参加ください。やむを得ず、遅れていらっしゃる場合は、事前にお知らせください。
<最寄り駅から麹町学園までの徒歩時間>
JR線:四谷(10分)、市ヶ谷(10分)
地下鉄(有楽町線、半蔵門線、新宿線、千代田線、東西線):麹町(3分)、半蔵門(4分)、市ヶ谷(10分)
都バス:麹町2丁目、麹町4丁目(2〜4分)
生命倫理に関する教育研究グループ
浅田由紀子 ダリル メイサー(責任者、筑波大学 助教授)
〒305 茨城県つくば市 筑波大学 生物科学系
FAX: 0298-53-6614 / TEL: 0298-53-4662
Email <
asianbioethics@yahoo.co.nz >.
学校における生命倫理教育ネットワーク
オーストラリア,日本,ニュージーランドの高校における生命倫理(日本語版)
Teaching materials in English/生命倫理教育の補助教材(日本語版)
To Eubios Ethics Institute Bioethics Resources